2025年7月8日火曜日

Born to bail out problem / 有島武郎 2025年7月 8日(火)

有島武郎(ありしま たけお 1878 - 1923)という作家を知っている人はどのくらいいるだろうか?名前だけは知っているという人は多いかもしれません。文学の歴史の中ではよく出てくる名前です。『一房の葡萄』という童話があります。主人公の「僕」が絵を描くのに、同級生のジムが持っている絵具を盗みそれが発覚し泣き続けていると、美しい先生が優しく許してくれて一房の葡萄を渡すのです。しかし、翌日学校でジムは手を引いていっしょに先生のところに行きます。そこで二人は葡萄を分け合い仲直りをするという話です。葡萄の房と先生の白い手が印象的な作品です。

私は、先日『生れ出づる悩み』を音声で読みました。何となく気にはなっていた作家でしたが、あまり知らなかったので、散歩しながら聞きました。当時の世相を表しているのだと思いますが、絵描きを目指す青年が結局漁師としてしか生活できないという苦悩は、当時としては共感を得るのかもしれませんが、現在では、それほど深く心に刺さらない展開です。青年は自分の生まれ出づる悩みによって自殺しますが、作者はそのような理不尽なことに同情し、小説を前向きに締めくくります。

私は、有島武郎という作家のことをよく知らなかったので、どういう人かを調べてみたら、恵まれた生活をしている人だと知りました。最終的にある女性と不倫の末心中をしたそうです。自殺願望がもともとある人で、自分自身もさまざまな悩みを抱えていた人だったのだと思います。

『生れ出づる悩み』という小説のタイトルには興味を持ちます。英語では、Born to bail out problemと訳されています。「生まれたことで問題を解決しなくてはいけない」というようなニュアンスが英語からは感じられます。確かに話は、生まれたことで自分がやりたいことができない苦しみから逃れようとしても逃れられない青年のことです。当時はそれが大きな問題だったのでしょう。現在でも考えてみるとそうかもしれません。日本にも確かし階層があって、生まれたことで将来が決まってしまう可能性は高い社会です。階層と言えば、イングランドやインドがよく引き合いに出されます。が、日本もちょっと前まではそうでした。最近はあまりマスコミにも取り上げられませんが、同和問題(部落差別など)は依然としてあります。

有島自身は、豊かな家系に生まれそれほど苦労のない生まれでありながら、ずっとそうではない人にその眼差しを向けていたのでしょう。何か悩んでいる人をみるとそのままにはしておけない優しい心持ちの人だったのではないかと思います。さらには、人間の原罪について深く考えていたのだと推測します。人間や社会は結局苦しみの連続であり、それに救いを差し伸べることはほぼありません。生まれるのも苦、死ぬのも苦です。すべての人が幸せに暮らす社会はあり得ない。そう考えていたように思います。『一房の葡萄』の先生の優しさがPietàなのでしょう。


蛇出て 足を止めると 水に入る